青森地方裁判所八戸支部 昭和61年(ワ)99号 判決 1988年11月30日
原告
大久保忠
右訴訟代理人弁護士
宮森正昭
被告
三八五交通株式会社
右代表者代表取締役
伊藤彰亮
右訴訟代理人弁護士
高橋勝夫
同
清水謙
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六一年三月一九日付でなした原告を三日間の出勤停止にする旨の懲戒処分が無効であることを確認する。
2 被告は、原告に対し、金三三万八九〇九円の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 被告は、タクシー及びハイヤーによる旅客運送等の事業を営む会社である。
(二) 原告は、昭和四二年四月一日被告タクシー乗務員として雇用され、昭和五九年一一月五日以降被告の吹上営業所に配属されタクシー乗務員として稼働している。
2 原告は、タクシー乗務中の昭和六一年三月一九日午前一一時二七分ころ被告本社の指令操作室(以下「営業センター」という。)のオペレーター関合誠一(以下「関合」という。)から無線で八戸市月丘町へ向かうようにとの配車指示(以下「本件配車指示」という。)をされたが、これに応じなかったため、同日被告から業務命令違反を理由として同日から同月二一日までの三日間にわたり出勤を停止する旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受けた。
3 原告が本件配車指示に応じなかった経緯
原告は、関合から最初に無線で呼出を受けた際に、一方通行の八戸大野線を、ゆりの木通りに向けて進行中であり、別紙(略)図面の<1>の地点において「鍜冶町」と応答して現在位置を知らせたところ、関合から月丘町へ向かうように指示されたが、その時点には原告は同図面<2>の地点に到達しており、しかも、ゆりの木通りとの交差点を右折すべく右側車線を走行しており、月丘町に向かうべく市民病院脇を経由するためには、道路左側へ進行して左折する必要があったが、後続車輌が連続しており、原告が進路変更をすると交通の妨げとなるため、自車が鍜冶町の出口を走行しているので車庫から配車するようにと関合に求めたところ、その後同交差点での右折を完了してゆりの木通りを長横町方面に向けて進行中に関合から市民病院を回るように指示されたので、車庫から配車して欲しい旨を再度関合に伝え、月丘町に向かうことなく、岩泉町方面に営業に向かったものである。
4 本件懲戒処分の無効原因
(一)(1) 被告においては、営業センターから配車指示を受けたタクシー乗務員が、道路事情及び交通状況により、現在位置と配車先がかけ離れていて、現在位置から配車先に向かうことが困難である場合には、当該乗務員が配車指示に従う必要がなく、営業センターから他の乗務員に配車指示をすることが労使慣行(以下「パスの慣行」という。)として認められていた。
(2) 本件配車指示を受けた際の原告の右位置及び周囲の交通状況によれば、配車先の月丘町と原告の現在位置とはかけ離れており、パスの慣行に照らし、原告が本件配車指示に応じなかったことには正当な事由があり、本件懲戒処分は平等原則に反するから無効である。
(二)(1) 訴外三八五交通労働組合(以下「交通労組」という。)は、昭和五〇年二月一日被告の従業員らによって結成された労働組合であり、原告は、同日交通労組に加入し、爾来その組合員であり、中央委員を一年間勤めたことがあるほか、昭和五八年に交通労組が実施したストライキにも参加し、昭和五九年九月二七日以降交通労組の会計監査役の地位にある。
(2) 訴外三八五労働組合タクシー支部(以下「タクシー支部」という。)は、昭和五八年七月一五日被告の従業員らによって結成された労働組合である。
(3) 被告は、原告が交通労組に加入していることを理由にして、敢えて本件懲戒処分に及んだものであるから、本件懲戒処分は不当労働行為として無効である。
5(一) 被告は、本件懲戒処分に基づき、昭和六一年三月一九日から同月二一日までの三日間にわたり原告の就労を拒否した。
(二) 原告は、右出勤停止期間中被告のタクシー乗務員として稼働していたとすれば、被告から別紙計算書記載のとおり賃金等として合計金三万八九〇九円の支払を受けることができた(以下この金員を「本件賃金」という。)。
6 被告は、故意、過失により、原告に対して無効な本件懲戒処分を行なうとともに、前項(一)記載のとおり就労を拒否したため、原告は多大の精神的苦痛を被ったが、これに対する慰藉料(以下「本件慰藉料」という。)は金三〇万円を下らないので、被告は原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、右金員を支払う義務がある。
7 よって、原告は、被告との間で本件懲戒処分が無効であることを確認すること並びに被告に対し本件賃金及び本件慰藉料の合計額である金三三万八九〇九円の支払をすることを求める。
二 請求原因に対する認否
1 第1項(一)及び(二)の事実はいずれも認める。
2 第2項の事実は認める。
3 第3項の事実のうち、関合が被告に無線で月丘町への配車指示を行ったこと、その際の原告の現在位置が鍜冶町であったこと、八戸大野線が一方通行であること、関合が原告との間でその主張する趣旨の無線交信をしたことは認め、その余は否認する。
4(一) 第4項(一)(1)及び(2)の事実は否認する。
(二) 同項(二)の事実のうち、(1)及び(2)の点は認め、(3)の点は否認する。
5(一) 第5項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)の事実は否認する。
6 第6項の事実は否認する。
三 被告の主張
1 被告におけるタクシーの無線配車指示の仕組
(一) 被告は、タクシーの無線配車について、車輌位置自動表示システム(以下「AVM」という。)を採用している。これは、青森県八戸市を一八地域(以下「エリア」という。)に区分し、被告の営業センターの空車台数表示器に各エリア毎の空車の車輌番号を、無線による配車指示を受けるまでの間の流し営業による実車回数(以下「カウント」という。)の高い順番に一〇台まで表示するものである。
(二) 被告は、顧客から配車依頼を受けたときは、指令操作室からオペレーターが、配車依頼のあったエリアを走行中のカウントの最も高い空車の乗務員に対して無線で配車指示を行なっている。
(三) 被告所定のAVM配車運用規則には、呼び出した車輌の現在位置が配車先よりかけ離れてしまった場合には次のカウントの車輌を配車する旨の規定があるが、これは、営業センターのオペレーターが、車輌の現在位置から配車先までの距離、交通事情等を斟酌し、通常の場合においては、配車先までの回送の所要時間が六分以上かかるものと判断する場合に、その権限において他の車輌に配車指示を行なう旨の規定であって、乗務員が独自の判断で配車指示に従わないことを肯定する趣旨のものではない。
2 本件配車指示の経緯
(一) 被告は、昭和六一年三月一九日午前一一時二七分ころ、顧客から八戸市月丘町への配車依頼を受けたが、月丘町がAVMの吹上エリアに属しており、原告の運転する六七四号車が吹上エリアの空車中カウントが最高であったので、営業センターのオペレーターの関合が原告に対して本件配車指示を行なった。
(二) 関合が原告を無線で呼び出したところ、原告が「鍜冶町」と応答し、関合が「月丘町の南部荘、杉沢さんへ」と指示したところ、原告が「鍜冶町の出口だ」と応答し、関合が「市民病院をまわって下さい」と指示したところ、原告が「車庫に一杯おるから車庫からやってくれないか」と応答したが、関合が「エリアのトップですから行って下さい」と再度指示したところ、原告が「車庫から誰か行ってくれないかな」と応答し、その後関合が原告を四回程度呼び出したが、原告は応答しなかった。そこで関合はやむなく他の車輌に月丘町への配車指示を行なった。
3 本件懲戒処分の経緯及び理由
(一) 被告は、同日原告を呼び出し、事情聴取を実施した。
(二) 被告の就業規則七二条三号は、従業員が業務上の指示命令に従わなかったときは、被告は当該従業員に対し、降格、懲戒休職、減給、昇級停止、乗務停止、出勤停止とする旨を定めており、無線による配車指示は、被告における業務命令の根幹をなすものであり、原告が本件配車指示を無視したことは、業務命令違反に該ることが明かであるから、企業秩序維持のため、被告は、昭和六一年三月一九日原告に対し、三日間の出勤を停止する旨の本件懲戒処分を行なったものである。
(三) 原告は、昭和五八年一二月二三日配車指示違反により被告から二日間の出勤停止処分に処せられ、昭和五九年五月一四日自車の所在地を偽って無線で報告したため被告に顛末書を提出した前歴があり、本件懲戒処分に不当な点はない。
(四) 原告は、交通労組に加入しているものの、組合三役に就任した経験はない。従って、被告は、原告の組合活動を理由に本件懲戒処分に及んだものではないから、本件懲戒処分が不当労働行為となるものではない。
四 被告の主張に対する認否
1(一) 第1項(一)及び(二)の事実は認める。
(二) 同項(三)の事実のうち、AVM運用規則の規定が存する点を認め、その趣旨に関する点を否認する。
2(一) 第2項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)の事実のうち、関合が原告に本件配車指示を行い、原告が現在位置を「鍜冶町の出口」と告げて営業所の車庫から配車するように求めてこれに応じなかったことは認める。
3 第3項の事実のうち(一)の点を認め、その余は争う。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因第1及び第2項の事実は当事者間に争いがない。
二 被告における無線配車の仕組
(証拠略)によれば次の事実が認められる。
1 被告は、昭和五七年無線によるタクシー配車を機械化するために車輌位置自動表示システム(AVM)を採用した。当時のAVMの概要は、青森県八戸市内を各エリアに区分し、各エリア内の空車を空車時間の長い順番に表示し、顧客から配車依頼を受けた場合には、配車先と同一エリア内を走行する空車時間の最も長い車輌を無線で呼び出して配車指示を行うというものであったが、この方法による無線配車を実施したところ、空車時間が長ければ無線配車を受けることができるために被告のタクシー乗務員が流し営業に力を注がなくなるという弊害が生じ、間もなくこれを使用しなくなった。
2 被告は、昭和六〇年一〇月七日から現行方式のAVMによるタクシーの無線配車を開始したが、その概要は、青森県八戸市を一八のエリアに区分し、被告の営業センターの空車台数表示器に各エリア毎の空車の車輌番号を、無線による配車指示を受けるまでの間の流し営業による実車回数(カウント)の高い順番に一〇台まで表示し、顧客から配車依頼を受けたときは、営業センターのオペレーターが、配車依頼のあった区域内を走行するカウントの最も高い空車の乗務員に対して無線で配車指示を行なうというものであり(以上の現行のAVMの概要には当事者間に争いがない。)、乗務員に流し営業に力を注がせることをその制度趣旨としたものである。
3 被告は、昭和六〇年九月現行のAVMを実施するための準則として「AVM配車運用規則」(<証拠略>)を制定し、同規則中には、同一エリア内の配車の場合であっても、呼び出した車輌の現在位置が配車先よりかけ離れてしまった場合には次のカウントの車輌を配車する旨の規定があるが(この規定が存することは当事者間に争いがない。)、その趣旨は、営業センターのオペレーターが、車輌の現在位置から配車先までの距離、交通事情等を斟酌し、通常の場合においては、配車先までの回送の所要時間が五ないし六分以上かかるものと判断する場合に、オペレーターの権限において他の車輌に配車指示を行なう旨の規定であり、乗務員が独自の判断でオペレーターの了解なしに配車指示に従わないことを肯認する趣旨のものではない。そして、昭和五七年に採用された旧方式のAVMの実施に当たって被告が制定した「AVM運用ルール」(<証拠略>)においては、オペレーターの了解を受けて配車先に向かわないことを「パス」と公式に呼称していたが、現行のAVM採用後は、公式には「パス」の用語は用いられていないが、乗務員中には、右の場合を「パス」と呼称する者もある。
以上のとおり認められる。(人証略)及び原告本人尋問における供述中には、いわゆる「パス」に当たっては、乗務員の判断がオペレーターの判断に優先し、オペレーターの了解を得ずにパスをすることも認められているとの部分があるが、(人証略)に照らし採用することができず、他に右認定を左右する証拠及び原告主張の趣旨に副うパスの慣行が存することを認めるに足りる証拠はない。
三 本件配車指示及び本件懲戒処分の経緯
1 被告が昭和六一年三月一九日午前一一時二七分ころ、顧客から八戸市月丘町への配車依頼を受け、月丘町がAVMの吹上エリアに属しており、原告が運転乗務する車輌が吹上エリアの空車中でカウントが最高であったため、被告営業センターのオペレーターの関合が原告を無線で呼び出して本件配車指示を行なったことは当事者間に争いがない。
2 (証拠略)によれば次の事実が認められる。
(一) 関合が昭和六一年三月一九日午前一一時二七分ころ、原告を無線で呼び出したところ、原告が「鍜冶町」と応答し、関合が「月丘町の南部荘、杉沢さんへ」と指示したところ、原告が「鍜冶町の出口だ」と応答し、関合が「市民病院をまわって下さい」と指示したところ、原告が吹上営業所の車庫から配車するようにとの趣旨で「車庫に一杯おるから車庫からやってくれないか」と返答し、関合が「エリアのトップですから行って下さい」と再度指示したところ、原告が「車庫から誰か行ってくれないかな」と求べて応答しなくなり、その後関合が原告を四回程度呼び出したにも拘らず、原告においてはなんらの応答もしなかった。また、この一連の交信において、原告は、自車の位置を「鍜冶町の出口」と述べたのみで、自車の走行位置、道路事情等の配車先へ到着するまでの所要時間が長くかかることについての具体的な事情をなんら関合に述べていなかった。関合は、原告が無線の呼び出しに応じなくなったので、やむなく、吹上エリアの空車でカウントが二位の柴波運転手が乗務する車輌に対して月丘町への配車指示を行なった。原告は、関合からの配車指示を無視した直後、流し営業をし、六日町において白銀までの顧客を拾った。
(二) 関合から無線で呼出を受けた当時、原告は、一方通行の八戸大野線をゆりの木通りに向けて進行中であり、被告の吹上営業所には、空車が駐車していた。そして、原告の右走行位置から月丘町までの所要時間は、ゆりの木通りとの交差点を左折して八戸市民病院脇を経由した場合が平均三分一五秒であり、同交差点を右折して通称長横町を経由した場合が平均三分一三秒である。これに対し、吹上営業所から月丘町への所要時間は約二分である。
(三) 鍜冶町等の八戸の市街地から月丘町に向かうためには狭隘な対面交通の道路を通過しなければならず、月丘町の客筋が近距離の利用者が多いこともあって、月丘町は、タクシー乗務員間では不人気な地域である。
(四) 被告は、同日午前一一時五〇分から午後二時まで及び午後二時四五分から午後三時二五分までの間本社会議室において、原告に対する事情聴取を実施したが、その際に原告は、本件配車指示に応じなかった具体的な理由を説明せず、吹上営業所の方が配車先に近いから同営業所から配車すべきであった旨を繰り返し開陳したのみであった。そこで、被告は同日午後三時五〇分ころ原告に対し、本件懲戒処分に処する旨を告知した。
以上のとおり認められる。原告本人尋問における供述中には、原告が本件配車指示を受けた地点から、配車先までの所要時間は、当時の交通状況では、ゆりの木通りとの交差点を左折して八戸市民病院脇を経由した場合が七分程度であり、同交差点を右折して通称長横町を経由した場合が六、七分程度であったとの部分があるが、(証拠略)に照らし採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。
また、原告本人尋問における供述中には、関合との交信中の原告の走行位置が請求原因第3項のとおりに推移し、原告が前記の交差点の右折を完了した後に関合から左折して市民病院脇を経由するように指示されたとの部分があるが、仮にそのとおりであるとしても、同交差点を左右いずれかに曲がった場合でも大差のない所要時間で原告が配車先の月丘町に到着することができたことは前認定の事実関係から明らかであるから、この点は本件の結論を左右するものではない。
四 本件懲戒処分の効力
1 (証拠略)によれば、被告の就業規則七二条三号は、従業員が業務上の指示命令に従わなかったときは、降格、懲戒休職、減給、昇給停止、乗務停止、出勤停止の懲戒処分を行なう旨定めていることが認められ、前記第二及び第三項において説示したところによれば、被告のオペレーターの関合がAVMを用い所定の方法に従って原告に対して本件配車指示を行なったところ、原告が関合の了解を得ずに独断で配車先に向かわなかったこと、当時の原告の走行位置は配車先からかけ離れたものではなく、原告が交通事情等の配車先に到達するまでの所要時間が長くかかる具体的な事情をオペレーターに告げることもしなかったこと、従って、原告の所為がいわゆる「パス」としても是認される余地がないことが明らかであるから、原告に懲戒事由に該当する業務上の指示命令違反が存したものといわなければならない。そして、(証拠略)の結果によれば、原告には昭和五八年一二月二三日に配車指示に違反したことにより被告から二日間の出勤停止処分に処せられ、昭和五九年五月一四日に自車の所在地を偽って無線で報告したため被告に顛末書を提出した前歴があることが認められるばかりか、被告の事業目的及びその営業形態に照らしタクシーの無線配車指示が被告の営業の根幹をなす極めて重要な業務命令であること、原告が本件配車指示に違反した態様及び被告の事情聴取時の原告の対応を勘案すると、原告を三日間の出勤停止に処する旨の本件懲戒処分は、企業秩序維持の必要に基づく相当な範囲内のものであり、過重なものということはできない。原告本人尋問における供述中には、本件懲戒処分は重すぎるとの部分があるが右の認定及び判断に照らし採用できず、他に本件証拠上本件懲戒処分が原告主張の如く平等原則に反するものと評価しうるほどの事情も認められない。
2 原告が本件懲戒処分が不当労働行為であると主張するので検討する。
(一) 被告の従業員らが昭和五〇年二月一日に交通労組を結成したこと、原告が同日交通労組に加入し、爾来その組合員であり、中央委員を一年間勤めたことがあり、昭和五八年に交通労組が実施したストライキにも参加し、昭和五九年九月二七日以降交通労組の会計監査役の地位にあること、被告の従業員らが昭和五八年七月一五日タクシー支部を結成したことは、当事者間に争いがなく、(人証略)によれば、原告がそのほかに交通労組ブロック長を勤めたことがあるものの、組合三役に就任したことはなく、団体交渉に出席したこともないことが認められる。
(二) (証拠略)によれば、交通労組が総評系の労働組合であり、昭和五八年の春闘で同年五月七日から同月三一日までの間に五波延べ一四日間のストライキを行ったこと、被告が同月三一日から同年七月二一日までロックアウトで対抗したこと、右ロックアウト中に交通労組を脱退した被告の従業員らが同月一五日旧同盟系の労働組合であるタクシー支部を結成したこと、交通労組が昭和五八年一〇月八日から昭和五九年一一月一九日までの間に青森地方労働委員会に対し、被告が歩合収入の多い観光タクシーの配車について組合員を差別し、被告が昭和五九年一一月二〇日で期限切れとなる三六協定の再締結を拒み同月二一日から同年一二月一三日まで組合員の配置転換を行なったこと等が不当労働行為であるとして救済申立を行い、同委員会が昭和六〇年一一月五日交通労組の申立を一部認容する救済命令を発したこと、被告が同年一二月一二日青森地方裁判所に右救済命令の取消訴訟を提起して係争中であること、交通労組が昭和六一年五月二三日同委員会に対し、同年四月二五日から同月二六日までの間に組合員が予約の配車について不利益な取扱を受けたとして不当労働行為救済の申立をしたこと、昭和五八年七月二六日から昭和六一年一一月九日までの間に被告から譴責処分を含む懲戒を受けた従業員が合計五八名であり、そのうち交通労組の組合員が四四名でありタクシー支部の組合員が一四名であることが認められ、以上の認定を左右する証拠はなく、これらによれば原告が所属する交通労組と被告の労使関係が必ずしも円満なものであるとはいい難い点がある。しかしながら、原告に懲戒事由があり本件懲戒処分の程度も相当な範囲内のものであることは前述のとおりであり、原告本人尋問中の供述及び(人証略)中には、原告が交通労組に所属しているためにことさら被告が本件懲戒処分を行なったとする部分があるものの、いずれも抽象的で具体性を欠いており俄に採用することができず、本件懲戒処分が原告が交通労組に所属していることを理由にことさらなされたことを認めるに足りる具体的な事情の主張及び立証はなく、以上によれば、本件懲戒処分が不当労働行為であると原告の主張には理由がない。
3 以上の認定及び判断によれば、本件懲戒処分は被告による正当な懲戒権の行使として有効なものといわなければならない。
五 以上の認定及び判断によれば、その余の点に審究するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 冨塚圭介 裁判官 小池喜彦 裁判官 櫻井達朗)